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ある指導者のはなし

若山 裕晃准教授
 
 今年の夏、かねてから親交のある高木英臣氏率いる京都両洋高校野球部が快進撃を見せてくれました。全国的にはまだ知名度の低い学校ですが、近年めきめきと力を付け、この夏の京都府予選では甲子園まであと一歩、決勝戦まで勝ち進んだのです。
 甲子園を目指す高校野球部と言えば、スパルタ教育や熱血指導をイメージしがちですが、高木監督の指導方法は従来とは大きく異なり非常にユニークです。たとえば、日々の練習メニューは選手たちに考えさせます。私の知る限り、全国大会を目指すようなチームでは、指導者主導で練習や試合が運営される形が一般的ではないかと思われますが、彼は基本的に見守る姿勢に徹して、選手たちの「真の成長」を待ち続けます。何かアドバイスをするにしても、一言二言で済ませ、「あとは自分たちで考えなさい」というスタイルです。しかも、野球部には専用グラウンドがなく、近所の企業のグラウンドを借りられる時間も限られているか、もしくは借りられない日もあるといった練習環境です。時間を効率的に使いなおかつ能力を高める練習が求められるわけですが、当初は戸惑っていた選手たちも、徐々に自分たちで考え、積極的に意見を交換するようになっていったそうです。
 また、高木監督はAthletes first, Winning second=i選手が第一、勝利は二の次)の精神を徹底しています。大きな試合でケガや故障のリスクを背負ってでも痛みをこらえてプレーし続けることが美談として語られることがしばしばありますが、そのような風潮が将来ある選手の可能性を奪ってしまうこともあります。彼は、たとえ絶対的な存在のエースピッチャーがいたとしても過剰な連投をさせないなど、選手の将来を甲子園と引き換えにすることだけは避けたいと考えているようです。
 他にもアイディアは豊富で、今春出版された『監督心』(保坂淑子著,実業之日本社)や新聞記事(朝日新聞京都版2012年7月5日)でも取り上げられています。これらの内容からは、現在のような指導スタイルに至るまでの経緯も伺えます。若い頃から人材育成には熱心だったようで、社会人時代の後輩で現在は西宮市議会議員の今村岳司氏のブログからも彼の人柄と情熱が伝わってきます。
 様々な方法で「自ら考え、工夫し、実行する人間」の育成を目指す高木監督のアプローチは、「高校時代に勝つことだけがすべてではない、将来を見据えた指導」と言えます。この夏の甲子園でも、三重県の松阪高校や熊本県の済々黌高校などが選手の自主性を尊重するスタイルのチームとして注目を集めました。ロンドンオリンピックでも、スポーツ科学の知見を積極的に取り入れ、長期的な視野に立った育成を展開してきた競技団体が良い成績を収めている印象を受けました。こうした流れは新しい指導のあり方として今後も広がりを見せていくのではないかと思います。
 ここのところ、彼のスタイルに共感するマニアックな高木ファンが少しずつ増えているようです。私もそのひとりとして、これからも彼を応援していきたいと思います。

 


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