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アメリカの野球選手育成環境

若山 裕晃准教授
 
 少々時間が経ってしまいましたが、2月23日(土)から3月14日(木)の日程でアメリカを訪問した報告です。アメリカ野球界の練習方法を視察するために、スプリング・トレーニング期間中のフロリダ州、カリフォルニア州、アリゾナ州を巡りました。
 高校生、大学生、マイナーリーグ、メジャーリーグの野球選手たちの取り組みを見て最も印象的だったことは、トレーニングが行われる際の徹底した合理性です。競技スポーツでのトレーニングの主な目的は、@「競技力の向上」とA「自分の能力を試合で発揮するための準備」ではないかと考えます。アメリカの野球環境では、この@とAが非常にバランスよく展開されているように感じました。まず、@のためには反復練習が必要ですが、アメリカでは様々なやり方で工夫されていました。たとえば、守備練習ですが、日本では“シートノック”と呼ばれる手法が定番で、サードから順番にショート、セカンド・・・と順番に選手がノックを受けるというパターンが多く、ほぼ毎日行われるのが一般的ではないかと思われます。小学生からプロ野球に至るまで、試合前にも必ず行われます。しかし、アメリカでは、そのような光景は全く見られませんでしたし、試合前のシートノックもないようです。私が見た中でチーム全体で守備練習が行われていたのは高校生のチームくらいでしたが、それでもそのチームは4人のノッカーがファーストとセカンド、サードとショート、キャッチャー、外野手を分担していたので、短時間に選手1人ひとりが多くのノックを受けることができていました。これに対して日本のシートノックでは、ノッカーは多くても2人ぐらいで、内野手と外野手を分担する程度ではないでしょうか。このやり方だと、1人が受けるノックの本数はかなり限られてしまい、長時間の練習でも自分の順番を待っている時間が長くなってしまうという現象が起こってしまうのです。他の守備練習としては、バッティング練習のケージの横でノッカーが打つという光景もよく見かけましたし(これは日本でもよく行われます)、個別で“壁当て”(壁に向かってボールを投げて跳ね返ってきたボールを捕ってまた投げる、という動作を繰り返す)に取り組む選手もいるようです。これらのやり方は全て多くの反復練習につながるのだと思いました。壁当ては、私も含めて昔の野球少年は必ず経験したであろう“古典的な”方法ですが、近年その効果が見直されて、それができる環境を作っているチームもあります(写真T・U)。また、ウォーミングアップからも個人の練習量を確保する工夫を感じました。人数の多いマイナーリーグのスプリング・トレーニングでは、ウォーミングアップは種目ごとに10グループほどに分かれて、1種目ごとに次々とこなしてローテーションしていくという手順で進められていました。無駄な時間を極力省いて、短時間で野球に必要な様々な動きを淡々と準備していくという印象でした。日本では、全員で同じメニューを行う方法が多く、何人かごとに順番で進めるためにメンバーが増えるほど待機する時間も長くなります。
 一方、A「自分の能力を試合で発揮する」ためには試合を想定した練習が必要です。このことに関しては、どのレベルの選手であっても“試合でのリズム”を意識した取り組みが多いように感じました。投球練習中のピッチャーは、コーチからの指導を受けたり、キャッチャーとコミュニケーションをとったりしながら投げますが、アメリカのピッチャーの多くは、投げる直前に静止する時間を作っていました。つまり試合では、ピッチャーが静止した状態からプレーが始まるため、それを意識しているように見受けられました。日本の場合、そういう時間をしっかり意識しているピッチャーはあまり見たことがありません。コーチの話を聞いたあと、あるいは、キャッチャーに次に投げる球種を動作で伝えたあと、動きを止めることなくそのままの流れで投球に入っていくピッチャーが多いのではないかと思います。アメリカでは技術レベルに関わらず、高校生の段階から試合に対する準備という意識が非常に高いように感じました。また、バッティング練習を1か所で行う(写真V)ことも“試合のリズム”を意識してのことではないかと思います。このことに関しては、先日国民栄誉賞を受賞した松井秀喜氏がヤンキースに移籍した最初の年のスプリング・トレーニング時のコメント(2003年3月1日朝日新聞)が参考になります。「こっちのフリー打撃はテンポが本当に速い。打球の行方を見ている余裕もない。自分のペースで打てないという面では、こっちのフリー打撃は試合に近いよね。むしろ、試合の方が間合いがある。」日本では、バッティング練習は複数個所で行われるのがほとんどです。何球かの打球が同時に飛び交う危険性を回避するためにバッターたちはタイミングをずらして打つので、待ち時間が発生する分ゆったりと自分のペースで打てます。しかし、野球はピッチャー主導で始まることやテンポの速いピッチャーがいることを考慮すれば、練習で自分のペースで打つことに慣れてしまうことは、自分の能力を試合で発揮するための練習とは言い難いのではないかと考えます。確かに、@「競技力を高める」ための反復練習という点では、日本式の複数個所でのバッティング練習の方が数多く打てるかもしれません。では、アメリカの選手たちはどのように反復練習を行っているかというと、それは個人練習で取り組むのだそうです。日本の選手がメジャーリーグに挑戦したときの報道などの影響で、一般的にアメリカでは練習時間が短いと思われていますが、実際には“全体”練習の時間が短いのであって、自主練習に取り組む姿勢に妥協はなく、早朝5時とか6時とかに練習場にやってきて、何球も打ち続ける。個人練習用のバッティングケージは早い者順に使えるそうで、混み合うこともあるようです(写真W)。私も、アトランタ・ブレーブスのスプリング・トレーニングで全体練習後に施設を見学していたとき、1人で黙々とバッティング練習を繰り返すマイナー所属の選手に出会いました。このときは午後だったのですが、彼曰く「他の選手の多くは早朝に個人練習をしている」とのことでした(写真X)。
 今回紹介した内容は、私が感じたことの一部に過ぎませんし、メジャーリーグは30球団、更に独立リーグなども合わせればチームは無数にあるわけですから、それだけ参考にすべき方法はいくらでもあるはずです。今年やっていたことが来年変化しているということもあるそうで、アメリカの野球には、現状に満足せず常に探究心を忘れない姿勢が強く感じられます。この視察で私自身大いに刺激を受けました。“合理性の中に選手の自主性を引き出す環境”をどのようにしたら整えられるのかを課題として、これからの日本の競技環境に反映させていきたいという思いを強く持ちました。



T.ロサンジェルス・ドジャースの旧キャンプ地にある
壁当て用の壁(フロリダ州ベロビーチ)

U.ロサンジェルス・ドジャースの現キャンプ地にある
壁当て用の壁(アリゾナ州キャメルバックランチ)
 

V.アトランタ・ブレーブスのバッティング練習
(フロリダ州オーランド)

W.ロサンジェルス・ドジャースの個人練習用
バッティッグケージ(アリゾナ州キャメルバックランチ)
 

X.アトランタ・ブレーブスのマイナー所属選手の個人練習(フロリダ州オーランド)

 


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