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伊勢おやきの夢

松井 真理子教授
 

 2014年5月27日、近鉄四日市駅前商店街の中に「伊勢おやき本舗」という店が開店し、私はその経営者になった。「おやき」は長野県の郷土食で有名だが、三重県にはおやき文化はないから、全く新しい商品である。三重県の「起業支援型地域雇用創造事業」を使って、1年がかりで開発した。開発に当たっては、昨年の本学の専門基礎ゼミ(当時2年生)の学生たちの意見を参考にした。現在は、「岩戸(三重県産鶏のつくね)」「忍者(伊勢ひじきと南伊勢町の竹炭)」「餅街道(餡と白玉・伊勢茶)」の3種類を製造・販売している。
 私の専門は市民活動であり、私自身さまざまな市民活動に関わっている。これまで市民活動に関する各種実験や実践を重ねてきたが、「伊勢おやき本舗」は、市民活動の新しい方向性の一つである「社会的企業」を開拓しようとするものである。
 「社会的企業」とは、「社会課題をビジネスの手法で解決しようとする事業」のことをいう。「伊勢おやき本舗」が目的とする社会課題は、「さまざまな事情で働きにくさを抱える人が、その人らしい働き方で、一般の人々と共に働ける場が少ない」ということである。 
 「伊勢おやき本舗」を経営する市民社会研究所(私が代表)は、厚生労働省委託事業の「若者サポートステーション」も実施しているが、ここでの相談を通じて、世の中には、ひきこもり、働いてみたものの失敗体験のトラウマで再び働く自信がもてない人、うつ状態、知的障害と健常のボーダーの人など、狭義の障害者とも違う、グレーゾーンの若者が実に多いことを思い知らされた。彼らは一般の企業にはなかなか入れないため、人生の早い段階で将来への明るい夢を失い、日々うつうつと生きているのが現状である。
 障害者認定がされている人でも、障害者のための福祉的作業所ではなく、一般の事業所で働きたいという人も多いが、適当な職場はなかなかない。このほかにも、家庭の負担の多い女性、高齢者など、元気な男性を前提としている職場の仕組みからは締め出されている人々は多数いる。その方々のために、今までのような職場のあり方ではなく、その人らしい働き方ができる方法を開発し、「仕事」という、収入を伴った社会の中の居場所を提供したい(ユニバーサル就労)。これが私の夢である。(ちなみに現在は家庭を持つ女性3、高齢者1、一般2、障害や特定の課題を持つスタッフ6という状況である。)
 社会的企業の最も難しいところは、スタッフの賃金が払えるだけの採算性をあげることである。福祉の制度ではないビジネスであるから、その意味では通常のビジネスと全く同じである。商品を「伊勢おやき」にしたのは、三重県は観光商品が乏しく、買いたくなる物が少ないところに着目し、「観光地で県外の人が手軽に買える物」にしたのである。
 幸い、中日本高速道路株式会社(NEXCO)が、四日市大学の近くにある東名阪道の御在所サービスエリア(上り)で、7月から販売することを許可していただいた。同社の新しい社会貢献活動(CSR)として取り組んでいただけるそうである。伊勢おやき本舗本店においても、商店街の方々に販売に協力していただいたり、趣旨を理解して毎日買ってくださるお客様など、多くの人々に支えられていることを実感する毎日である。
 今後、今の3種類のおやきだけでなく、三重県各地の「ご当地おやき」の開発を行って各地の地域活性化に貢献したり、売上を上げてスタッフの賃金を上昇させたり、ユニバーサル就労のノウハウを他の事業所へ普及させたり、夢はますます広がる。
 そして、課題の当事者、関係者の人々が力を合わせて、グローバル資本主義経済とは別の「連帯経済」を、地域の中に確立していきたいと考えている。

岩戸
【岩戸】
忍者
【忍者】
餅街道
【餅街道】
お店
【お店と従業員】

 


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