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県教育委員長を経験して思ったこと

岩崎 恭典教授
  
 2011年3月11日は、私にとって二重の意味で忘れられない日となりました。その日、朝9時前、私は慣れないネクタイを着用し、野呂三重県知事(当時)から、3月10日付けの「教育委員」の辞令をもらい、教育委員会組織について詳細な事務説明を受けたのち、帰宅して、ホッと一息ついたその時に、東日本大震災が起こったのです。
それから、4年。東日本大震災の復興は、福島原発事故の影響が大きく、遅々として進んでいないという感を強く持ちますが、私の体験した教育委員としての4年間は、それは目まぐるしいものでした。
皆さんにとって、教育委員会とはどのようなものでしょうか。私学を除き、公立の市町村立小中学校、公立高校に通った人なら一度は、その名前を聞かれたことがあるでしょう。教育委員会とは、都道府県ごと(以下「県教委」と略)、市町村ごと(以下「市町村教委」と略)に置かれており、公立学校の設置、教員の配置、教科書の選択から給食か弁当かといった選択までを決める役割を持った独任制行政委員会です。そして、選挙でえらばれる自治体の首長から独立して、教育行政を執行する地方自治体の執行機関の一つなのです。
県教委は、事務のトップたる教育長とともに、教育面では素人であってかまわない教育委員が4名選任され、県議会の同意を受けたうえで合議制の会議体を形成します(layman controlといいます)。私は、そのメンバーの一人になったわけです。そして、2012年10月から2014年10月の2年間は、合議体の長たる教育委員長を務めさせていただきました。
大多数の皆さんが受けてこられた学校教育に関わるのが教育委員会なのですが、学校とは異なって皆さんからは、縁遠いものという印象が強いかもしれません。
けれども、区域内の小中学校の運営について全責任を負う市町村教委と同じように、広域自治体たる県教委は、県立高校、特別支援学校(小〜高)を中心にその運営に当たるとともに、小中学校の教職員の人件費を国費と県費で負担していることから、小中高校の教職員の人事権を有するところが市町村教委とは違う大きな特色です。
そのため、この4年間は、地方自治を研究するものとしては、大変良い研究現場を与えていただいたと思っています。
個々の案件については、守秘義務があるため、記すわけにはいきませんが、印象的だったことをいくつか備忘録的に記しておきたいと思います。
一つは、この国の中央集権的な体質です。一年に2回、全国の都道府県教育長・教育委員長会議が開催されます。東京で開催される際には、総会と共に、文部科学大臣から講話があり、その後に文科省施策説明、さらに、夕方からは情報交換会が実施されます。そこでは、文科省の次官や各局長・課長が顔を揃え懇談します。私も懇談しながら、「他の国の省庁が地方に出先機関を持っているのに対し、文科省は出先機関を有していない。だから、文科省は、各県教委を国の出先機関としてとらえているのだなぁ」と実感しました。
ご存じのとおり、国は、学習指導要領や教科書検定を通じて、全国一律の教えるべき最低限の内容や学級編制基準を定め、義務教育費国庫負担金制度を通じて教職員の人件費の1/3を国費で負担することによって法律により教職員定数の上限を定めています。教える内容や一学級あたりの児童生徒の数、先生の数を定め、それ以上は、県や市町村が独自に経費を負担するならやってもいいよという姿勢です。その一方で、例えば、三重県の場合では、全国学力学習状況調査の結果が思わしくないことから、県独自の少人数学級の効果を挙げなければなりません。執行機関といいながら、人事権は有しても、予算編成権は知事に属し、予算は知事にお願いするしかない県教委は、結局、国の制度改正を待ち焦がれ、文科省の応援団として制度改正要望するだけで、金が掛かる独自の有効な施策はなかなか打ち出せないのが実情なのです。
地方分権を勉強してきた私にとって、現行教育委員会制度の問題点を知ってはいましたが、その中身・実際の運用状況を知れば知るほど、教育面でのナショナルミニマム(国としての最低水準の確保)とローカルマキシマム(地方自治体としての最適水準)を調整する仕組みをどう考えればいいのか、単に財政分権すればいいという単純な解決策ではないというのが、現時点での率直な感想です。
二点目は、教育委員長在任時に大きく変わっていくことになった現行教育委員会制度の行方です。滋賀県大津市や大阪市立高校でのいじめ、体罰事件の際に、教育委員会が機能していないとの批判が高まり、1956年以来約60年間続いていた教育委員会制度は、2015年4月に改正されることになりました。改正法の施行に伴って、教育委員会は、執行機関ではあり続けますが、新たに、首長と教育委員とで総合教育会議という合議機関をつくり、そこで、当該自治体の教育施策の基本的方向を定めることとなりました。
この法律改正の過程では、特に、教育再生実行会議、中央教育審議会、その後の法案要綱作成時の自民党・公明党の与党協議と、機会があるごとに、先に述べた都道府県教育長・教育委員長会議からたびたび意見を求められ、どう制度改正がなされ、それぞれのステイクホルダー(利害関係を有する主体)がどう動くかをつぶさに観察する機会を与えられました。この過程はまた別の機会にどこかで詳しく書きたいと思っていますが、今回、政治的任命たる首長の関与を強めることとなった制度改正は、いじめ・体罰事件等の発生の際に教育委員会が機動的に動くことを可能とするかもしれませんが、その一方で、今後、例えば、教科書採択や道徳の教科化など、見解の分かれる問題の際に、選挙時に支持を受けた団体の意向を尊重せざるを得ない首長と、政治的には自由な立場にいる教育委員が総合教育会議でどう合意形成することができるか、未知の世界に足を踏み入れることとなります。
2015年3月10日、鈴木知事から、二期目の教育委員の辞令を受けました。講義のネタには困りませんけど、今後も現実と理論との間での勉強が続きます。



【2014年10月17日、三重県議会本会議が始まる前に、委員長席から議員席を望む】
       

 


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