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アメリカ野球のマイナーリーグにおける選手育成環境

若山 裕晃准教授
 
 8月26日(水)から31日(月)の日程でアメリカ・ミシガン州のミッドランドという町を訪ねました。目的は、以前から交流のある石橋史匡氏がコーチを務める、ロサンゼルス・ドジャース傘下の1Aチーム「グレイト・レイクス・ルーンズ」のレギュラーシーズン中の様子を視察することです。これまでにも、アメリカでメジャーリーグの試合やスプリング・トレーニングを観たことはあったのですが、アメリカ野球の選手育成の根幹であるマイナーリーグは未知の世界で、一度生で観てみたいと考えていた折、石橋氏のコーチ就任を知り(詳しくはコチラ)、今回の訪問を計画しました。
 滞在した6日間で5試合(8月26日:チームの本拠地ダウ・ダイアモンドで1試合、27日〜29日:敵地サウスベンドで3連戦、30日:本拠地に戻って1試合)、練習から試合までルーンズの取り組みを観察することができました。その間、石橋氏をはじめチームの関係者の方々から多くのご厚意を受け様々な事を教えて頂きました。チームとしての取り組み、マイナーからメジャーまでドジャース全体としての取り組み、マイナーリーグの位置づけ、アメリカの練習方法等々、非常に多くの新鮮な情報を頂きました。
 その中でも特に印象に残ったことは、野球に関わる人達が皆プロフェッショナル≠ナあるということです。マイナーだろうがメジャーだろうが関係なく、自分に与えられた役割に対して全力を尽くそうという姿勢が、選手に限らずコーチングスタッフ、球団職員、グラウンドキーパー、球場サービス等あらゆる立場の人達から非常に強く感じられるのです。選手がマイナーから1歩ずつステップアップしてメジャーを目指していくという流れは一般的に良く知られていますが、それ以外の人達もそれぞれの役割で働きが認められると次のステージに上がれるシステムだそうで、それが一人ひとりのモチベーションを高めていると感じられました。
 今回実際にマイナーリーグを観てみようと思ったのは、アメリカ野球に精通する知人から「アメリカのシステムを知るには絶対マイナーリーグを観たほうがいい」と言われたことがきっかけだったのですが、その意味は行ってみて初めて分かりました。私も実際に行く前は、マイナーリーグは日本の2軍に相当する存在という程度の認識だったのですが、その考えは完全に覆されました。1Aとはいえ、チームは地元から非常に愛され、本拠地球場のダウ・ダイアモンドはとても美しく(写真T)、ファンサービスも素晴らしい(写真U、V)。選手も日本で言われているほどハングリーな環境にいるわけではなく、例えば食事は今シーズンからオーガニックのメニューとなり、遠征先のホテルにはシェフが帯同しているそうです。日本にいると、マイナーリーガーはハンバーガーしか食べられないとか、遠征の移動中は狭いバスの中でひしめきあっているといった情報をよく聞きますが、少なくともルーンズに関しては全くそんなことはありませんでした。確かにメジャーと比べれば、球場の収容人数は小規模ですが、その分ファンと選手との距離は近く感じます。また、プレーの質も雑な場合がありますが、将来的に創造性豊かなパフォーマンスを魅せるのではないかという期待を抱かせる選手も多くいます。バス移動であるのは、メジャーほど遠距離の移動がないからで、シーズン中に遠征があることはマイナーも同じです。さらには、マイナーでもそれぞれのカテゴリーでの優勝チームにはチャンピオンリングが授与されるそうです。つまり、マイナーリーグであっても、規模が小さいとはいえメジャーと同質の環境やスケジュールが展開されているのです。そういう環境が、メジャーに上がっていくまでの全てのカテゴリーで(ドジャースではルーキーリーグから3Aまで7段階、ルーンズは下から3段階目)選手たちを待ち受けているわけです。厳しい競争社会の中で、段階を踏んで、アメリカの野球環境で能力を発揮する方法を模索し、体得していくのですから、メジャーでプレーできる選手はその頃にはしっかりした自分のスタイルが確立されているというわけです。そのスタイルの中には、技術面はもちろん、練習方法、体調管理、プレーの準備方法、ファンとの接し方等あらゆる要素が含まれます。誰かが一から全て手取り足取り教えてくれるのではなく、環境に適応することで着実に身に付けていくようになっているのです。こうしたシステムがアメリカ野球の人材育成につながっていると今回の訪問でよく分かりました。日本で「育成」と言うと、「教育」という言葉に置き換えられ、教え込むようなアプローチが展開されがちです。「○○しなさい」、「□□してはダメ」などと、言うとおりにすることが求められます。少なくとも今回私が観て、聞いて、感じたアメリカの野球では、そういう指導法はほとんど見られませんでした。いちいち言わなくても、体験して学んでいくものだ、といったところでしょうか。象徴的な事例として、日本の野球の試合ではかなりの頻度で見られる光景で、今回の視察では全く見られなかったことがあります。それは次打者への指導者からの指示です。アメリカでは、ネクストバッターズサークル(ちなみにこれは和製英語で、正式には on deck circle)で監督やコーチ、あるいはチームメイトが何かアドバイスするというシーンは全く見られず、打席に入る前から選手個人だけの空間が確保されているのだと感じました。
 他にもまだまだ紹介したいことは尽きませんが、最後に一つ付け加えることとしては、今回紹介した内容はあくまでもドジャースに関しては≠ニいう条件付きであるということです。遠征先によっては、観客がまばらだったり、球場施設も貧弱だったりすることもあるそうです。ですからルーンズの環境は、私から見れば、日本に比べて非常に進歩的な育成環境という印象なのですが、それでも石橋氏によれば、ドジャースよりもっと充実した育成を展開しているチームがいくつもあるそうです。もしかしたらドジャースに所属するスタッフとしてやや謙遜気味にそう言われたのかもしれませんが、もうこれで十分、完成した≠ニいう考えに至ることはあり得ないらしく、育成法において毎年のように何かしら新しい試みに取り組むチャレンジを続けているのだそうです。日本のスポーツ界も、少しでもこのような姿勢を見習って、従来の指導法を洗練させていくべきではないかと考えさせられる今回の訪問でした。


【T.グレイト・レイクス・ルーンズのホームグラウンド、ダウ・ダイアモンド】


【U.試合終了後、ファンサービスのベースランニングに参加する子供たちが行列を作って待つ】


【V.遠征先の相手チーム、サウス・ベンド・カブスの本拠地、フォー・ウィンド・フィールドの子供用のプレーゾーン】


 


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